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払済保険への変更

はじめに ■背景 ■明らかにされた取り扱いの概要 ■払済保険への変更時の経理処理 ■復旧の場合の経理処理

1.はじめに

 法人契約の払済保険への変更時の取り扱いが明らかになった。まず,生命保険協会からの照会に対し平成13年8月30日付で国税庁から回答があり,その後,平成14年2月15日付の法人税基本通達の一部改正(課法2−1,課審4−25)により,法人税基本通達9−3−7の2(払済保険へ変更した場合)が新設された。
 これにより,法人がその加入している養老保険等を払済保険に変更した場合(保険金額を減額した場合)には,原則として,その変更時の解約返戻金相当額と既契約の資産計上額との差額を損益として,精算処理(洗替経理処理)を行うこととされた。


2.背景

 法人契約の払済保険変更時の取り扱いについては,従来,法令・通達上明記されたものはなく,国税庁担当官による法人税基本通達9−3−7(保険契約の転換をした場合)の解説の中で,払済保険について触れたものがあるだけであった。
 その解説では『「払済保険」というのは,既契約の養老保険等について,契約途中で保険料の払込みをストップするとともに,既払保険料に係る責任準備金の多寡に応じて保険金額を減額するというものである。これについては,特に既払保険料の一部を精算するというようなものではなく,単に保険金額を減額するにとどまることになるので,特に既往の資産計上額を再評価する必要はなく,そのまま保険事故の発生または解約失効等により契約が終了するまで資産計上を継続することになる。』とされ,実務的にはこの考え方をもとに,払済保険への変更時には特段の経理処理を要しないものとされてきた。
 この考え方は,昭和55年12月の法人税基本通達の改正に伴って示されたものであるが,経理処理を不要とする前提には,既契約の保険が養老保険などの資産性の保険であることがイメージされていた。この場合は,支払保険料が資産計上されており,仮に払済保険への変更時に洗替経理処理を行ったとしても,資産勘定の振り替えとなるため,あえて経理処理する必要はないとされたものである。また,保険料の払い込みが困難になり,保障を減らしてでも契約を継続したいというニーズを勘案し,転換とは異なる取り扱いが容認されたという背景もある。
 ところが,その後に発売された長期平準定期保険や逓増定期保険は,定期性の保険として支払保険料の全部あるいは一部が損金の額に算入されるものの,保険料が平準化されているために保険期間の途中で多額の解約返戻金が発生するものであった。
 とくに,逓増定期保険特約付終身保険の払済保険への変更時には,逓増定期保険特約部分の解約返戻金が主契約である終身保険の一時払保険料となって,差益が顕在化しないという点が問題視された。この点は,平成8年7月の逓増定期保険の保険料の取り扱いを制定する際にも検討されたが,その時点では特に取り扱いは明示されなかった。
 しかし,平成13年3月に,終身タイプのがん保険・医療保険の短期払の問題と合わせて,国税当局から「払済保険への変更時に経理処理が不要であるということを利用して,払済保険への変更を前提とするような節税目的の販売を行っている。」との問題意識が提示された。
 法人契約の払済保険への変更の場合の税務上の取り扱いは,従来は実務上「特段の経理処理を要しない。」とされてきたが,今回の取扱いの明示により次のように取り扱うことになる。

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3.明らかにされた取り扱いの概要

(1) 払済保険への変更時の経理処理

 払済保険に変更した場合には,原則として,変更時点における解約返戻金相当額と既契約の資産計上額との差額について,払済保険に変更した事業年度の益金の額または損金の額に算入する洗替経理処理を行う。既契約の保険料の全額(傷害特約等に係る保険料の額を除く。)が役員または使用人に対する給与となる場合は,この限りではない。
 ただし,養老保険,終身保険および年金保険(定期保険特約が付加されていない場合に限る。)から同種類の払済保険へ変更した場合には,洗替経理処理を行わず,保険事故の発生または解約失効等により契約が終了するまで既往の資産計上を計上しても差し支えない。
 これは,払済保険への変更後の商品が変更前の商品と異なる場合には,払済保険への変更時に元契約の資産計上額と解約返戻金相当額との洗替経理処理が必要であるが,単体の養老保険,終身保険および年金保険という資産性の生命保険については,洗替経理処理をしなくてもよいということになる。満期保険金受取人が法人,死亡保険金受取人が被保険者の遺族で,全員加入など普遍的加入の要件を満たし,支払保険料の2分の1が福利厚生費として損金算入できる養老保険契約(福利厚生プラン,ハーフタックスプラン等といわれるもの。)についても経理処理は不要となる。
 定期付終身(養老)保険から終身(養老)保険への払い済み,逓増定期保険・長期平準定期保険の払済保険への変更時には洗替経理処理が必要となる。

(2) 払済保険への変更後の経理処理

 洗替経理処理を行った場合には,その後の経理処理は,変更した時点において払済保険への変更後の保険種類と同一の保険に加入して保険期間の全部の保険料をまとめて支払った場合に準じて取り扱う。

(3) 復旧

 払済保険に変更後,保険会社の承諾を得て保険契約者が保険会社所定の金額を払い込むことにより原保険契約に戻すことを「復旧」という。
 契約の復旧の場合の経理処理は,払済保険に変更時点で益金の額または損金の額に算入した額を復旧した日の属する事業年度の損金または益金の額に算入し,払済保険に変更後に損金の額に算入した額を復旧した日の属する事業年度の益金の額に算入する。なお,復旧に際して払い込んだ保険料は,当初の契約の保険に基づく税務上の取り扱いにより経理処理する。
 これは,払済保険へ変更した事業年度と復旧した事業年度が異なる場合には,復旧以前の事業年度の損益の修正ではなく,復旧した事業年度において経理処理を行うことを示している。

(4) 適用

 新設された通達には適用についての規定はないが,平成13年8月の回答時には平成14年1月1日以後に払済保険へ変更されたものについて適用するが,保険契約当初に払済保険への変更を前提として加入していると認められる場合は,それ以前の払済保険への変更についても適用するとされている。

払済保険への変更時に洗替経理処理が必要な場合(例)

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4.払済保険への変更時の経理処理

 払済保険への変更を行った場合,変更時点における元契約の資産計上額(保険料積立金・前払保険料)が解約返戻金相当額より少ない場合の差額は,雑収入として払済保険に変更した日の属する事業年度の益金の額に算入し,元契約の資産計上額が解約返戻金相当額より多い場合の差額は,雑損失としてその事業年度の損金の額に算入する。既契約の保険料の全額(傷害特約等に係る保険料の額を除く。)が役員または使用人に対する給与となる場合は,この限りではない。
 ただし,養老保険,終身保険および年金保険(定期保険特約が付加されていないものに限る。)から同種類の払済保険に変更した場合には,再評価せずに,それまでの資産計上額を保険事故の発生または解約・失効等により契約が終了するまで計上することもできる。
 なお,積立配当金は払済後の契約へそのまま引き継がれるので,配当金積立金についての経理処理は必要ない。

【設例】

 〈契約形態〉契約者=法人,被保険者=役員または従業員,受取人=法人
(1) 逓増定期保険特約付終身保険あるいは定期保険特約付終身保険から払済終身保険へ変更

・元契約の資産計上額

保険料積立金(終身保険部分の累計保険料) 700,000円
前払保険料(逓増定期保険特約の保険料の一部) 500,000円

(注)全額損金タイプの場合は,前払保険料はない。

・払済保険への変更時の解約返戻金相当額 7,500,000円

借   方 貸   方
保険料積立金 7,500,000
保険料積立金 700,000
前払保険料 500,000
雑収入 6,300,000

 上記のケースで,契約者貸付があったとすると,契約者貸付金の精算が必要となる。
・契約者貸付による借入金額 300,000円,利息15,000円
・精算後の解約返戻金相当額 7,185,000円

借   方 貸   方
保険料積立金 7,185,000
借入金 300,000
支払利息 15,000
保険料積立金 700,000
前払保険料 500,000
雑収入 6,300,000


(2) 逓増定期保険(全額損金タイプ)から払済終身保険へ変更

・元契約の保険料は全額損金算入されているため,資産計上額はない。
・払済保険への変更時の解約返戻金相当額 1,300,000円

借   方 貸   方
保険料積立金 1,300,000
雑収入 1,300,000


(3) 逓増定期保険または長期平準定期保険から払済平準定期保険への変更

・元契約の資産計上額
  前払保険料(逓増定期保険・長期平準定期保険の保険料の一部) 500,000円
   (注)全額損金タイプの場合は,前払保険料はない。
・払済保険への変更時の解約返戻金相当額 1,200,000円

 この場合には,払済保険へ変更時の経理処理と,変更後の保険料の経理処理が必要となる。


<1> 払済保険へ変更時の経理処理

借   方 貸   方
長期前払費用 1,200,000
前払保険料 500,000
雑収入 700,000

<2> 払済保険へ変更後の経理処理

 払済保険への変更があった日に解約返戻金相当額の保険料の一時払をしたものとして,変更後の保険の種類に応じて経理処理する。払済保険変更時点で長期前払費用として処理した金額を期間の経過により取り崩し損金の額に算入する。
 なお,払済後の平準定期保険が長期平準定期保険に該当するかどうかの判断は,払済保険変更時の年齢を加入時の年齢として,再度判定を行う。

・変更時の年齢40歳で,満期年齢80歳の場合→長期平準定期保険
 〈払済保険変更後当初24年間〉
借   方 貸   方
定期保険料 15,000
前払保険料 15,000
長期前払費用(注) 30,000
 
  (注)初年度は月数按分による年度対応分のみ取り崩す。

 〈払済保険変更後25年目から16年間〉

借   方 貸   方
定期保険料 52,500
長期前払費用(注) 30,000
前払保険料 22,500
 

・変更時の年齢60歳で,満期年齢80歳の場合→一般の定期保険

借   方 貸   方
定期保険料 60,000
長期前払費用(注) 60,000
 
  (注)初年度は月数按分による年度対応分のみ取り崩す。

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5.復旧の場合の経理処理

 復旧されれば,元の保険契約に戻ることになる。払済保険への変更はなかったものとして処理する。
 払済保険に変更した時点で益金の額または損金の額に算入した額を復旧した日の属する事業年度の損金の額または益金の額に,また,払済保険に変更した後に損金の額に算入した額を復旧した日の属する事業年度の益金の額に算入することになる。
 なお,復旧に際して払い込まれた保険料は,当然のことながら当初の契約の保険に基づく税務上の取り扱いによることとなる。

【設例】
 〈契約形態〉いずれも契約者=法人,被保険者=役員または従業員,受取人=法人

 逓増定期保険または長期平準定期保険から払済平準定期保険への変更
・元契約の資産計上額
  前払保険料(2分の1損金タイプの逓増定期保険) 500,000円
払済保険へ変更時の年齢40歳,満期時年齢80歳→長期平準定期保険
・払済保険への変更時の解約返戻金相当額 1,200,000円
・1年経過後に復旧
  復旧時の払込保険料 200,000円

<1> 払済保険へ変更時の経理処理の修正

借   方 貸   方
前払保険料 500,000
雑損失 700,000
長期前払費用 1,200,000

<2> 払済保険へ変更後の経理処理の修正

借   方 貸   方
長期前払費用 30,000
前払保険料 15,000
雑収入 15,000

<3> 復旧時に支払った保険料の経理処理

借   方 貸   方
定期保険料 100,000
前払保険料 100,000
現金又は預金 200,000

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