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ガン・医療保険

はじめに ■取り扱い制定の背景と経緯 ■明らかにされた取り扱いの概要 ■設例による経理処理

1.はじめに

 懸案となっていた法人契約のがん保険(終身保障タイプ)および医療保険(終身保障タイプ)の保険料の税務上の取り扱いが明らかになった。
 これは,生命保険協会からの照会に対し,平成13年8月10日付で国税庁課税部長名で回答(平成13年8月10日・課審4―100「法人契約の『がん保険(終身保障タイプ)・医療保険(終身保障タイプ)』の保険料の取扱いについて」)があったもの。問題となっていた有期払込の場合は,105歳を計算上の満期到達時年齢としてその年度の損金算入額を計算し,平成13年9月1日以降に支払期日が到来する保険料から適用することとされた。


2.取り扱い制定の背景と経緯

 法人契約のがん保険の保険料の取り扱いについては,昭和50年にアメリカンファミリー生命からの照会に対する回答として出された個別通達「昭和50年10月6日付・直審4―76『法人契約のがん保険の保険料について』」があり,その後に発売されたがん保険についてもこの通達を準用して実務的な経理処理を行っていた。
 同通達では,保険期間は終身,保険料は掛け捨てであるが,契約の失効・解約などの場合には所定の払戻金があるという特性を持つがん保険の保険料に関して,保険金受取人が法人であるケースについて,保険料は支払いのつど損金の額に算入することを認めている。ただし,保険料払込方法に関しては年払,半年払,月払とあるだけで,保険料払込期間についての記述はない(同社のがん保険は終身払込しかなかったため,特段の記述がされなかったものと思われる。)。
 しかし,その後に各社から発売されたがん保険(終身タイプ)の中には,保険料払込期間に有期払込が設けられたものがあり,これらについても支払った保険料の全額をその年度の損金の額に算入するケースが見受けられた。なかには,数年で保険料の払込みが終了する短期払込の契約が法人税軽減・資産運用プランとして提案されたケースもあったが,さすがにこれは問題視され,販売は行われなくなっていた。しかし,60歳払込満了や65歳払込満了などの有期払込の契約は依然として販売されてきた。
 保険期間が終身で有期払込という契約は,保険料払込期間と保険期間の経過が対応せず,支払保険料の中には当該年度の損金の額には算入できない前払保険料が生じることになる。そこで,当年度の損金算入対象保険料と払込満了後の保険期間に対応する前払保険料を算出することが必要になるが,保険期間が終身であるためにその計算をどのようにすればよいかが不明であり,懸案事項となっていた。


 これまでも税務上の取扱いが明らかにされるという噂は頻繁に流れたが,具体的な動きはなかった。しかし,平成13年1月から大手生命保険会社および損保系生保子会社による第三分野商品の販売が始まり,さらには7月からは損害保険会社が本体により参入するという第三分野商品の全面解禁を背景に,取り扱いの明示となった。実際には,平成13年3月中旬に国税庁からがん保険の短期払に対する問題意識が提示され,その後,業界内で対応を検討し,照会・回答となった。なお,がん保険だけでなく医療保険についても同様に処理することとなった。

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3.明らかにされた取り扱いの概要

 がん保険(終身保障タイプ)および医療保険(終身保障タイプ)は,保険料は掛け捨てでいわゆる満期保険金はないが,保険期間が長期にわたるために高齢化するにつれて高まる死亡率等に対して平準化した保険料が算出されている。そのため,保険契約の失効・解約等の場合には,払込期間に応じた所定の払戻金が契約者に払い戻される。この商品特性を踏まえて,法人が支払う保険料の税務上の取り扱いが明らかにされた。

(1) 保険金受取人が会社の場合


<1> 終身払込の場合
 払い込みの都度,損金の額に算入する。

<2> 有期払込の場合

 保険期間が終身であるために,保険料払込期間と保険期間の経過が対応せず,支払保険料の中に前払保険料が生じることになる。したがって,法人が支払う保険料について,当年度の損金算入対象保険料と前払保険料を計算することが必要になるが,保険期間が終身であるために,その計算をどのようにすればよいかが不明であった。
 そこで,「105歳」を「計算上の満期到達時年齢」として,払込保険料に「保険料払込期間を 105歳と加入時年齢の差で除した割合」を乗じた金額を損金の額に算入し,残りの金額を積立保険料として資産に計上する。保険料払込満了後は,保険料払込満了時点の資産計上額を「105歳と払込満了時年齢の差」で除した金額を資産計上額より取り崩して損金の額に算入する。
 なお,「105歳」は生保標準生命表の最終年齢「男性106歳,女性109歳」を参考に設定された。

(2) 保険金受取人が役員または使用人(これらの者の親族を含む。)の場合

 (1)の保険金受取人が会社の場合と同様の取り扱いとするが,役員または部課長その他特定の使用人(これらの者の親族を含む)のみを被保険者としている場合は,その役員または使用人に対する給与とする。

(3) 適 用

 平成13年9月1日以降に保険料の支払期日が到来するものから,この取り扱いを適用する。当然ながら,同日以降の新契約が対象となるのではなく,それ以前の既契約の保険料についても適用される。

(4) その他

 通達には明記されていないが,今回の取り扱いは終身タイプのがん保険と医療保険すべてについて,無条件に保険料の損金算入を認めているわけではない。
 本来ならば,普通死亡給付部分は保険料を区分し,終身保険と同様に資産計上すべきであるが,ごく小額の普通死亡給付が組み込まれているものについては,取り扱いが煩雑になることから保険料全額を対象に損金算入を認めている。
 現在販売されているがん保険については,普通死亡給付金が高額とされるものはないようだが,国税庁からの回答にもあるとおり,今後,普通死亡給付金額を現状以上に高く設定するような商品改定を行ったりすれば,今回の取り扱いの適用外となり,その部分の保険料が区分できる場合には資産計上し,区分できない場合は保険料の全額を資産計上することになる。
 医療保険については,現在販売されている商品の中にも普通死亡給付が高く損金算入できないケースもある。
 普通死亡給付金額が高額とされるケースとしては,一律100万円とか入院給付金日額の100倍以上となっているような契約は,これに該当するとされている。
 なお,終身タイプのがん保険として販売されている商品の中には,商品設計上,保険金額10万円程度の終身保険に終身タイプの医療関係特約を付加し,約款により主契約と特約部分を分離できないようにしているものもある。このような商品については,保険金額が小額であったとしても,終身保険部分の保険料は死亡保険金受取人が会社の場合は資産計上,被保険者の遺族の場合は給与となる。
 ところで,今回の取り扱いを明示するにあたって,次のような点が口頭により説明されている。
 終身タイプのがん保険・医療保険の保険料の損金算入には,会社が契約者となっている契約について,被保険者の退職時の経理処理が適切に行われていることが求められる。たとえば,退職時に個人に名義変更するなどの処理をせずに引き続き会社の資産として計上されているような場合は,不適切な経理処理が行われているとして損金算入は認めないとされている。
 また,商品設計上,解約返戻率を高めたり,保険料の損金処理による税メリットを過度に訴求する売り方をする場合には,今回の通達に規定する経理処理そのものが問題となることもある。注意しておきたい点だ。

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4.設例による経理処理

(1)保険金受取人が会社の場合

 保険料払込期間が終身払込であるか有期払込であるかにより,支払った保険料の取り扱いが異なる。なお,保険金受取人が会社の場合は,全員加入か特定加入かにより取り扱いが異なることはない。

<1> 終身払込の場合
 払い込んだ保険料の全額を損金の額に算入する。

借       方 貸       方
支払保険料 ××××
現金又は預金 ××××

<2> 有期払込の場合

 保険期間が終身であるために,保険料払込期間と保険期間の経過が対応せず,支払保険料の中に前払保険料が生じるため,法人が支払う保険料について,当該年度の損金算入対象保険料と前払保険料を計算することが必要になる。
 「105歳」を「計算上の満期到達時年齢」として,払込保険料に「保険料払込期間を105歳と加入時年齢の差で除した割合」を乗じた金額を損金の額に算入し,残りの金額を前払保険料として資産に計上する。保険料払込満了後は,保険料払込満了時点の資産計上額を「105歳と払込満了時年齢の差」で除した金額を資産計上額より取り崩して損金の額に算入する。

【設例】
・がん保険(終身保障タイプ)
・契約者・保険金受取人=法人,被保険者=役員
・30歳契約,60歳払込満了,年払保険料20万円

イ.保険料払込中(60歳まで)

借       方 貸       方
支払保険料 80,000
前払保険料 120,000
現金又は預金 200,000
 

ロ.保険料払込満了後(61歳以降)

借       方 貸       方
支払保険料 80,000
前払保険料 80,000
 

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(2)保険金受取人が役員または使用人(これらの者の親族を含む。)の場合

 (1)の保険金受取人が会社の場合と同様の取り扱いとなるが,役員または部課長その他特定の使用人(これらの者の親族を含む)のみを被保険者としている場合は,その役員または使用人に対する給与とする。

<1> 終身払込の場合

払い込んだ保険料の全額を損金の額に算入する。

借       方 貸       方
福利厚生費※ ××××
前払保険料 ××××
  役員または部課長その他特定の使用人のみを被保険者としている場合は,給与・報酬となる。

(2) 有期払込の場合

 保険期間が終身であるために,保険料払込期間と保険期間の経過が対応せず,支払保険料の中に前払保険料が生じるため,法人が支払う保険料について,当該年度の損金算入対象保険料と前払保険料を計算することが必要になる。
 「105歳」を「計算上の満期到達時年齢」として,払込保険料に「保険料払込期間を105歳と加入時年齢の差で除した割合」を乗じた金額を損金の額に算入し,残りの金額を前払保険料として資産に計上する。保険料払込満了後は,保険料払込満了時点の資産計上額を「105歳と払込満了時年齢の差」で除した金額を資産計上額より取り崩して損金の額に算入する。

【設例】
・がん保険(終身保障タイプ)
・契約者・保険金受取人=法人,被保険者=役員・使用人(全員加入)
・30歳契約,60歳払込満了,年払保険料20万円

イ.保険料払込中(60歳まで)

借       方 貸       方
福利厚生費 80,000
前払保険料 120,000
現金又は預金 200,000
 

ロ.保険料払込満了後(61歳以降)

借       方 貸       方
福利厚生費 80,000
現金又は預金 80,000

参照:法人契約のがん保険の保険料について(昭50直審4-76、廃止)
参照:新成人病保険の保険料の取扱いについて(昭54.6.8直番4-18)

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